【 人喰い般若 と 月の夜 ③】 

あの時色んなことを考え頭を巡らせた。

なのでいつも私を守ってくれて 力を貸してくれている 神々や武人たちを呼び、 戦闘態勢に入った。

修羅場の前の嵐の前の静けさ。 海の凪。

そんな状態の中、 緊迫して覚悟を決めて障子を開けた。

中は暗い。

部屋は10畳ほどあるくらい少し広めの和室。

そのど真ん中・・・

10畳ほどある畳の半分以上の大きな大きさで 顔が後ろ向きに佇んでいた。

黒い長い髪が畳を覆っていた。

不氣味な空氣。 異様な悪臭。 強い靈力というか靈力を超えた何かの力。

今の私に何ができるか・・・

今、この状況の中で來たはいいけど 何ができるか・・・

「主人がもしかしたら  亡くなってるかも知れないから視て欲しい」

その依頼にこの現状。

緊迫した状況。 どう対処したらいいかわからない。

そして、その長い髪の顔だけの存在は ゆっくりとゆっくりとこちらを振り向いた。

私の存在を感じたからだ。

あの景色を忘れることは無い。

自分のことだが、 よく10代の娘が泡を吹いて 倒れなかったと思う。

実際、肉体を持って目撃したら 現実を受け止めきれず卒倒していただろう。

でも、そんなこと言ってられない。

「負けちゃいけない

 こんな所で倒れたはいけない

 落ち着け

 落ち着け

 現状を理解しろ」

どうなるかなんてそんなことわからない。

「だけど、自分を信じろ

 そして、守ってくれている神々、

 武人たちの力を信じろ」

色んな言葉が駆け巡った。

顔だけのダルマのような存在が こちらを振り向くのに それほど時間は掛からなかった。

私の心の中がその一瞬に 多くを感じ、多くの心や言葉を巡らせた。

振り向いた顔は

『 般若 』だった。

あの 般若の仮面 そのものに見えた。

そして口にくわえていたものは・・・

" 人間 "

肉体そのものではなく"靈魂"。

だけど、人間そのものを口にくわえ、 口の至る処から血が流れ出て したたり落ちている。

その般若は 靈魂を喰らっていた。

美味しそうに喰らい切ったあと。 私に飛びかかってきた。

私は動かずにいたが、 私が動くより先に、 後ろに構えてくれていた武人たちが 対応してくれた。

この現状が夢であって欲しい。

でも靈視の世界といえど "魂の現実" だ。

武人の刀でその般若自体は消滅した。

雪が解けるように チリチリとその存在自体が 消えて行ったのだ。

そして、残されていたのは、 命を終えた肉体だった。

般若がいなくなり異臭も消えた。

異臭があるところに 闇の存在たちはいることが多い。

その匂いによって 何がいるのかが違うし、強さも違う。

強ければ強いほど 異様な匂いなだけでなく、

匂いで縛られるような匂い自体が 刀のようになり攻撃しながら 巻き付いて來る。

それを切り抜け本体へと進む。

その本体自体が消滅したあと。

ご供養をし、昇華させる。

でもあの時は そんなことすら何も経験が無い、 初めての経験だった。

今だからこそわかるけど 当時の私に何もわかる訳はない。

後ろの武人たちが居てくれなかったら 私ですらどうなっていたか・・・。

人間の靈魂を喰らっていた 般若が消滅されたあとに 残っていたのは命を終えた肉体だった。

ようやくそこで初めて その肉体が現れてくれたのだ。

確認する必要もなく、 その亡骸は依頼者のご主人だった。

肉体的にはただ横たわっているだけ。

誰にも見つけられず亡くなったのだろう。

どんなに素行調査をした所で 歩いて出て來ることもない。

肉体から魂が離れる時の悲しみ。

その悲しみや苦しさや悔しさが 魂の匂いとなって 般若を呼び寄せたのだろう・・・。

般若や魔物たちは人間の新鮮な魂を喰らう。

厳密に言うとその魂に刻まれた "歴史" を喰らうのだ。

つまり、魂から "経験" を奪う。

ある者は奪った経験の中にある 喜びや幸せ、樂しかった想い出、 積んだ徳などを喰らい、 永遠の苦しみから開放されようと 魂を探し、狙い、喰らう。

ある者は同じ感情の魂を狙い憑依し、 違う肉体を使って生前の想いを晴らす。

喰らう者も喰われる者も それぞれの理由がある。

だけど、だからこそ 生きている内に心を清め、 命の感謝と共に経験を積み、 魂を鍛え育て生きる意味がある。

飛ぶ鳥あとを濁さず。

長い経験の中では それだけで生きれる人は少ないかも知れない。

それでも、失敗や悔しさ、 辛さ、悲しみの経験を次に活かし、 乗り越えていく強さを育てることが できたら魂自体が成長し、 闇に落とされることも 落ちることもなくなっていく。

消息不明となったご主人の魂は 喰われ消滅してしまったけれど、 せめてせめて亡骸に対し、 般若に対しても大慈大悲の心で 命の感謝を祈りお経を唱えた。

般若になった魂も元はと言えば人。

人の想念は魂になった後も変化する。

成仏しきれない現世での 怒りや憎しみ、悲しみ、執着、執念は 魂になっても持ち続ける。

それは魂の錘となって 天に上がる道を閉ざされ 魂狩りに合い、闇に堕ちることもある。

その途中にあるのが・・・・・

=======明日④へと続く=======

愛と感謝と祈りを込めて

Succla☆




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